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胃腸科コラム・広報誌 COLUMN

Dr.岡崎の胃腸とこころ 2 90歳の恋(急性胃潰瘍)

2013.11.09

胃腸とこころ 2

財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀

 

90歳の恋  急性胃潰瘍

 瀬戸内の総合病院の内科外来に、胃の痛みを訴え90歳の男性が長男のお嫁さんとともに受診された。数日前から胃がしくしく痛み、昨日から強くなったとのこと。ご高齢にも関わらず、服薬も無く、矍鑠(かくしゃく)とされている。診察でみぞおちを押さえると強い痛みがあるが、他に異常は無く、尿と血液所見も正常であった。
検査としてまず胃内視鏡(いわゆる胃カメラ)から始めた。胃の中を観ると、なんと真ん中あたりに6×3cm程度の巨大な縦長地図状の潰瘍があった。通常の潰瘍は大きくても2~3cmで円形である。特殊な急性潰瘍で帯状潰瘍と呼ばれ、高齢者の胃の入口側半分に多い。原因は心理的ストレスか薬剤である。
念を押したが薬の服用は無いとのことなので、ストレスであろうと思いいろいろ尋ねたが、何も無いとのことであった。とりあえず入院して様子をみましょう、と準備のため隣室に移ってもらった。すると、付き添いの長男のお嫁さんがそっと入ってきて、「先生、じいちゃんはふられたんですよ。」と言った。一瞬、何のことかわからずきょとんとしていると、「失恋したんですよ。」と続いた。90歳で失恋とは!と絶句したが、以下の説明で納得した。
連れあいは20年前に病死していた。数年前から近所の当時80才代前半の女性との付き合いが始まり、一緒にお茶を飲んだり、庭いじりをしたり、催し物に出かけたりで、周囲も微笑ましく見守っていたとのこと。ところが、3ヶ月前から毎日の如く訪れていたこの女性が、日毎足が遠のき、この2週間は全く姿を見せなくなった。本人は、毎日、最近は一日に何度も電話をかけていたが、この何日か相手は電話にも出なくなった。本人はイライラと家の中を歩き回り、ぶつぶつといっていたが、その女性が他の男性と付き合っていることがわかった数日前から胃が痛いと言い出した。2日前から痛みが強くなり来院した、とのことであった。若者と全く変わらないこの方の精神面に感嘆した。
さて、治療であるが、原因を取り除くことがもっとも良いが、この方の場合は難しい。そこで、入院という環境の変化と、医師や看護師、他の患者さんというにぎやかな雰囲気での気分転換を考えた。目論みが功を奏し、服薬の効果も加わり、急速に症状が軽快した。2週間後に退院、2カ月後の検査で潰瘍は完全に治っていた。心身の若さに敬意を表し、次なる恋を祈った。
心理的ストレスと胃の病気は関係が深く、激しい腹痛や吐血など急激な症状が多い。若い人は胃の出口の方の半分、年配の方は胃の入り口の方の半分のところに、特徴のある変化が起こりやすい。したがって、内視鏡の検査をすれば、診断と治療の糸口がみえてくる。

 

財団法人 防府消化器病センター

研究所長 岡崎幸紀

 山口県防府市の新聞 防日新聞に連載中!

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新聞社名:防日新聞社 山口県防府市寿町1-2

掲載新聞:防日新聞 第6317号 平成25年10月22日掲載

項目   :胃腸とこころ 2  「90歳の恋」  急性胃潰瘍

著者   :財団法人 防府消化器病センター 研究所長 岡崎幸紀 

       日本消化器病学会名誉会員・指導医

       日本消化器内視鏡学会功労会員・指導医

 

 

財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院

所在地:山口県防府市駅南町14-33 (山口県の中央部 瀬戸内海に面した街)

診療科目:

消化器外科、消化器内科、内視鏡外科、内視鏡内科、疼痛緩和内科、胃腸外科、胃腸内科、外科、内科、放射線科

 

 ※ 財団法人 防府消化器病センター 防府胃腸病院は、山口県防府市(防府市役所前)にある消化器専門の病院です。

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